Seven's Room



EVケーターハム

 自動車評論家の舘内端氏が代表を務める日本EVクラブが電気自動車のケーターハムを製作しようとしたのが2012年。既存の自動車を電気自動車にコンバートした実績をそれまでに多数持つ青森県八戸市の東北自動車に依頼したのだ。

 雑誌Tipoの企画で同じ様に電気自動車のケーターハムが全国を走ったのが1997〜1998の事だった。電池を搭載したリヤカーを引っ張って走る姿を記憶してる方も多いでしょう。当時は鉛電池だったが15年を経て搭載されるのはリチウムイオン電池へと変わり、見た目にもスッキリしたEVケーターハムがついに完成した訳です。

 苦労しながらもついにナンバーが付いたのは2013年8月19日。公道を走れるようになりました。今回のレポートはナンバーが付いた直後に東北自動車へ出向き隅々まで観察させてもらった際の写真と、その翌週にステアリングを実際に握って走らせてみた感想です。。


○ベース車両はクラシック?

 古いケーターハムからエンジンを下ろし、そこにバッテリーとモータを搭載してEV化してます。コンバートEVと呼ばれるタイプです。電池はエンジンルーム内とトランク部分に搭載。搭載されたリチウムイオン電池は東芝製で、僅か5分で急速充電できるらしい。舘内代表の話では航続距離は100〜130kmではないかとの事です。この辺は実際に走ってみないと分からないという事でしょうね。

 ベース車両は群馬県高崎市にあるKENT SPEEDから購入したケーターハム。フロントのアッパーアームがAではなくI型である事、コックピットのセンタートンネルにカーペットが貼られていない事、ミッションが4速である事、リヤサスがリジット・アクスルである事から1990年代中盤に290万円の衝撃プライスで登場したクラシック・モデルと思われますが…真偽はよく分かりません(^^;)。

以下の写真はナンバー取得後、製作した東北自動車にて舘内代表から許可を得て撮影したものです。

当然ラジエーターは無し! まさかの八戸ナンバー! 急速充電器CHAdeMO規格に対応

エンジンルーム右側 エンジンルーム左側 排気管の穴は塞いであります 右サイドにもガードバーを装着

アッパーはAではなくIアームです 乗り心地を考えてスタッドレスを装着 メーターパネルは割とシンプルです



○当たり前ですが・・・無音です

 EVですから走行中は音がしません。耳を澄ますとシューっというモーター音がするだけです。Sevenと言えばウェーバー・キャブレターからの豪快な吸気音と、4本出し〜サイドマフラーからの豪快な排気音に惹かれて乗ったという方も多いはず。それが姿形はSevenのままで無音で走行する様子は普段乗ってる者から見ると異様な光景です。

 論より証拠。Youtubeに映像を載せてありますのでこちらからご確認下さい。当日は風が強かったのですが、走り出しても風の音しか聞こえません。ちなみに左に並んでいる駐車車両の中に私のバーキンが停まっています。ハイ、当日は仕事を抜け出してスーツ姿のままバーキンで駆けつけました(^^;)。


○インプレッションその1〜操作編

 「EVセブンに乗ってみませんか?」と製作した東北自動車から電話をもらったのが2013年8月27日の昼過ぎ。関係者だけで内々の試乗会を行うという。私がSeven乗りだという事をここの社長が覚えていて誘ってくれたのだ。こんな誘いを断る理由はもちろん無い。仕事そっちのけで二つ返事でOKした事は言うまでもない(^o^)。翌28日は風が強かったものの天気は晴れ! 「嵐を呼ぶ男」と呼ばれてた頃が嘘の様に天気に恵まれた。

 EVと言えばオートマ...と思いきや、シフトノブはダミーではなくそのまま使用するという。その為クラッチペダルもそのままある。これはちょっと不思議だ。だが実際には3速ホールドにしておけば事実上のオートマチックとして走れる。停止時にクラッチを踏まなくてもエンストの心配はない(^^;)。 スポーツ走行用に用意してあるのかもしれないが、EV用のMTミッションってどんなの? という疑問を感じつつ、今回は3速ホールドのATモードで走行してみた。  ミッションは4速で、1速の左奥にリバースがある。下に押し込んでリバースに入れるのは通常のケーターハムと同じだ。他に試乗した数人はこの手のミッションに慣れてないようで、暫く悪戦苦闘した後に製作スタッフを呼んだり、グルッと大回りしてバックさせることなくスタート地点に戻ったりしていた。EV化で重くなったとは言え一般車と比較したらまだまだ軽いわけで、降りて押して戻すという事も可能だろう。


○インプレッションその2〜発進&加速編

 レシプロと違ってEVはスタート時から最大トルクを発揮するため、信号グランプリでは一般車に勝ってしまうほどだ。通常のケーターハムより重いとはいえ770kgの車重はまだまだ軽量な部類だ。さぞかし豪快にホィールスピンするだろうとニンマリしながらいきなりアクセル全開...にしたのだが、拍子抜けするほど静かにノンビリ進むスタートとなった。

 ゆっくりスタートしてそのままリニアに加速していくのだが、暴力的加速という表現にはほど遠いものだ。一度アクセルを緩めて途中からアクセルを全開にする、いわゆる中間加速にしても同様で「速い!」と感じることはなかった。

 聞くと意図的にこうした制御にしているらしい。不慣れな人がいきなり急発進しない為の安全策でもあり、電池の消耗が激しい急発進を極力控えて航続距離を少しでも延ばす為の制御なのだろう。今回のEVケーターハムの目的(後述)を考えると理解できるセッティングなのだが…EVの一番オイシイ部分を味わえないのは正直言って残念だった。


○インプレッションその3〜減速&荷重移動編

 Sevenの特徴に「荷重移動が速い」というのがある。アクセルを戻しただけで瞬時に加重がフロントに移動する。車重が軽いのでコーナリング時はフロントにしっかり荷重をかけてやらないと曲がらないのだ。アクセルのオン/オフで小刻みにクルマの向きを変えられるのも荷重移動が速いから可能と言える。

 EVケーターハムではこの荷重移動が非常にゆっくりだ。エンジンブレーキ(と言っていいのかどうか?)が効かないのでアクセルを抜いても加重がフロントに移動したと感じにくい。端的に言えばアクセルのオン/オフによるピックアップが良くないのだ。重厚なフライホィールが組み込まれたエンジンみたいだと言えば分かりやすいだろうか。

 一般的にEVには回生ブレーキが搭載され、これを高めるとアクセルを戻したときに急にブレーキが効いたように感じる。俗に言う「カックン・ブレーキ」だ。逆にこうした仕様にするとSevenっぽい感じになるのでは?と思う。この辺は前後にバッテリーを搭載していて重量バランスがノーマルとは異なる影響も大きいのだろう。

 それとEVケーターハムのブレーキは甘い! 13インチのスタッドレスタイヤを履いているというこの個体特有の特性はあるものの、ノーマルより車重が増えてるだけにこれは心許ない。予想外に制動距離が長くちょっと驚いた。


○インプレッションその4〜ハンドリング編

 Sevenの信条はその身軽さである。車重が200kg弱増えたEVケータはどんな動きを見せるのだろうか?

 その前に、今回の試乗では他の誰一人として車の性能を確かめる様な運転をしなかった。ただ走らせて停まって終わり。そして「静かだね」と感想を言う。お〜い、この場にクルマ好きは居ないのかぁ? 私は「自由に乗ってイイですよ」と言われたのでその言葉に素直に従いました(^^;)。 そう言えば皆2人乗車だったのに私だけ1人で運転させてもらったしなぁ…。

 気を取り直してレーンチェンジの話から。直進からステアリングを右に切り、また真っ直ぐの状態から左に切りと数回繰り返してみた。う〜む、反応が鈍い。前述のようにスタッドレスタイヤを履いてるという条件に加え、ノーマルのステアリング・ホィールにノーマルのステアリング・ギアレシオという状態ではあるがステアリングを切った直後の反応が遅い。「重さを感じる」という表現が一番ピッタリ合う感じだ。あまりスピードを出さないのかもしれないが、緊急危険回避という点ではちょっとどうかという感じだ。

 180°転回するにも一苦労する。私のバーキンは小径ステアリング+クイックレシオに替えてるからステアリングを左右90°回すだけでコーナーも交差点もクリア出来るので比較しても仕方ないのだが、EVケーターハムはかなり切り込まないと回れない。そしてステアリングがやたら重い! まるで重ステだ。本来なら鼻先の軽いケーターハム(KENTモデル)も、バッテリーや制御システムを詰め込んだ影響がハンドリングに端的に出てしまったようだ。

 軽快なフットワークと言うにはちょっと厳しい。ワインディングでは苦労しそうだなぁ。


○インプレッションその5〜まとめ

 辛口のインプレッションになってしまったが、これはあくまで「通常の(ガソリン車)Sevenと比べてどうか?」という基準で見た場合の感想なので、その点はご理解頂きたい。

 電気自動車のネックは今も昔も「電池」である。初号機から15年、鉛電池を積んだリヤカーを引っ張って走ったSevenがリチウムイオン電池を得て、見た目にもスッキリした姿で走り出すまでに進歩したことは大きな前進である。だがやはり電池そのものの重量が文字通り重荷であることに変わりはない。EVケーターハムが運動性能でガソリンエンジン搭載モデルと肩を並べるには、有機バッテリーの実用化などより一層の電池の進歩(軽量化)を待たなければならないだろう。

 日本が世界標準に推す急速充電器の規格「CHAdeMO」をもっと普及させるキャンペーンの為にEVケーターハムは企画された。同じキャンペーンでもリーフやi-MiEVでは与えるインパクトが弱い。通行人の目を惹き、「えっ、これ電気自動車なの?」と強烈な印象を与えるのにSevenは絶好の素材だったと言える。そしてこの車両で日本1周を成し遂げようとすれば耐久性を第一に考え、航続距離を延ばす為の妨げになるセッティングはしないというのは当然だろう。このEVケーターハムは決して最高速にチャレンジしたりワインディングを攻める目的で作られた個体ではないのだ。その意味では目的に十分合致した電気自動車だと言って良い。弐号機としては必要にして十分な完成度だろう。

 9月25日にこのEVケーターハムは東京から日本1周の旅に出る。その大いなる冒険が成功するよう、みんなでエールを送ろう!


○『コンバート EVスーパーセブン 日本1周 充電の旅』の概要

 2013年9月25日、EVケーターハムは日本1周の旅に出ます。その概要がこちらです。皆さんの街を通った際は是非とも応援してあげて下さい!






戻る